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2011.04.21
赤字の会社を買収すると、繰越欠損金は消えてしまう
法人税では、会社の赤字は、繰越欠損金として、翌年から7年間の黒字と通算できることにしています。
例えば、今年、会社設立以来、初めて5000万円の赤字が出たとします。
翌期は3000万円の黒字、翌々期は4000万円の黒字とします。
法人税の税率が40%とすれば、
7000万円(=3000万円+4000万円)× 40% = 2800万円
の法人税がかかることになります。
ところが、今期の5000万円の赤字を繰り越して、翌期以降の黒字と通算できるため、翌期は法人税はゼロ円、翌々期は2000万円の黒字となり、2年間で支払う法人税は800万円でよいことになります。
これだけで、2000万円も節税できます。
会社が大赤字になっても、翌年から7年間の黒字と通算できるという、長期間で回収できる制度を作ったのです。
大赤字の会社が企業再生するためには、資金が必要です。
税金が節税できれば、真水で使えるお金が増えることになります。
ただ現実には、会社が5000万円の赤字を出してしまうと、なかなか、企業再生することができません。銀行も5000万円もの赤字を出した会社に、新規の融資は難しいでしょう。
そこで、取引先や知り合いの社長に相談して、その傘下に入ることで、資金繰りを改善させて、企業再生させようと考えることもあるでしょう。
または、そのようなツテがなければ、第三者に身売りすることで、企業再生する方法を考えるかもしれません。
どちらにせよ、買う側は、自分の事業との相乗効果を狙いますが、5000万円の繰越欠損金があることも、今後の資金繰りが楽になり、買収のメリットの1つの考えるはずです。
つまり、売上が上がって利益が出ても、当分は、税金を支払わなくてもよいことは、大きなメリットなのです。
ところが、昔から、赤字会社を節税だけのために、売買する人たちがいました。
そこで、税制改正によって、会社の50%超の株式を売買したあとに、下記の事項に1つでも該当すると、繰越欠損金は消滅することになりました。
① 事業を止めて休眠していた会社の株を売買したあとに、新規に事業を開始した場合
② 株の売買前に行っていた事業は止めて(止めることが見込まれていて)、売買後の新規事業が、旧事業の売上等のおおむね5倍を越える資金を借り入れた場合
③ 株の50%超を保有している個人やその関連会社が、赤字会社に対する債権を買ってきたときに(その債権を債務免除又は現物出資することが見込まれていれば除かれる)、旧事業のおおむね5倍を超える資金を借り入れた場合
④ 上記の①から③の場合において、その赤字会社を被合併会社とする適格合併を行うこと、又はその赤字会社の残余財産が確定した場合
⑤ 株の50%超を売買したことで、赤字会社の常務取締役以上の役員がすべて退任して、かつ、赤字会社の社員の20%以上が退職した場合において、新事業が旧事業規模のおおむね5倍を超えることになった場合
何か、難しいことが書かれているように感じますが、簡単に言えば、
「株を買ってきた赤字会社の事業を止めて、そこで新規事業を始めて、その利益を繰越欠損金と通算させない」
という規定なのです。
だから、事業の相乗効果を狙って、赤字会社を企業再生させるつもりならば、基本的には、繰越欠損金は使えるということです。
節税することができれば、会社の資金繰りはよくなります。
「脱税=悪いこと」ですが、「節税=悪いこと」ではありません。
繰越欠損金は、赤字会社の隠れた資産と言えるでしょう。
それを使って、企業再生することは、税法でも認められていることになります。
ただし、赤字会社を買収したところまではよかったが、自動的に、上記の基準に当てはまり、結果、繰越欠損金が消えてしまい、企業再生に失敗した事例もあります。
微妙な基準、例えば、「社員の20%以上が退職した場合」などは、判断が難しいでしょう。繰越欠損金を見込んで、事業計画を建てていたのに、消滅してしまっては、そのあとの資金計画が、大きく狂ってしまいます。
赤字会社を買収する時に、この基準で迷った場合には、専門家を交えて、チェックすることをお勧めします。
とにかく、直近で赤字の会社には、その前に、いくら儲かっていたとしても、繰越欠損金があるのです。
というよりも、ずっと赤字の会社は買収しませんし、そもそも、企業再生が難しいはずです。
だから、昔は儲かっていたけど、現在は、何か突発的な理由で、儲からなくなった会社こそが、買収対象になるのです。
そのとき、繰越欠損金が消えてしまう基準に当てはまってしまう場合には、当てはまらないようにするためには、どうすればよいのかも考えましょう。
どうしても、当てはまることで、繰越欠損金が消えてしまう場合には、そもそも、株の売買ではなく、事業譲渡で企業再生を目指すという方向転換もあり得ます。
株で売買すれば、会社の隠れている負債も、古い取引先との契約も、社員との雇用契約も、すべて引き継ぐことになるからです。
あとで、会社の資金繰りの足を引っ張ることが予想されるものは、できるだけ、引き継がないことが、企業再生への近道なのです。