債務超過解消スキーム
当たり前ですが、債務超過の会社に、新たにお金を貸す金融機関はありません。
今すぐにでも、倒産する可能性が高いからです。
債務超過の会社に、増資する投資家もいません。
債務超過が解消されるまでは、増資しても、すぐに株価はゼロ円になるからです。
1億円の債務超過の会社に、1億円の増資をしたら、その瞬間に1億円は消えてしまうのです。
債務超過の会社と合併する会社もありません。
その会社の債権者も株主も、絶対に反対するからです。
では、どうしたらよいのでしょうか?
債務超過になっているのですから、時間的な余裕はありません。
すぐにでも、お金を入れないと、社員の給料、事務所の賃料、それだけではなく、水道光熱費も支払えなくなるかもしれません。
単純に、保有している不動産の価値が大幅に下がったので、債務超過になった会社もあるのでは? と考える人もいるかもしれません。
では、不動産の価値とは、どのように計算されるものなのでしょうか?
それは、不動産からの利回りから、逆算されます。
すごく賃料を稼げる不動産なのに、価値は低いということはありません。
価値が大幅に下がったということは、収益が落ちてきているのです。
債務超過ということは、不動産を買うときに、借金をしているはずです。
その借入金の利息と返済が滞るのは、時間の問題です。
とにかく、債務超過という状況から、一刻も早く抜け出さなければいけません。
そのための方法は、「借入金を債務免除してもらう」しかないのです。
でも、債権者がそれを同意するでのしょうか?
債権者が同意しなくても、企業再生するためには、借入金を債務免除させてしまうしかないのです。
債務免除などしてもらわなくても、会社のキャッシュフローを改善して、借入金を少しずつ返済していこうなどと考えてはいけません。
そんなことで、債務超過を解消できるわけがありませんし、債権者が待ってくれる保証もありません。
そして、キャッシュフローが改善しなければ、銀行への返済どころか、取引先への買掛金も、役員や社員の給料も、事務所の家賃も、支払えなくなることは明らかです。
そうなれば、今まで、よい関係を築いてきた役員も、社員も、取引先も、銀行も、損害を被り、捨て台詞を言って、去っていくでしょう。
そのあとには何も残らず、誰も助けてくれる人はいなくなります。
破産したあとに何も残らず、ゼロなら、まだいいです。
人生は当たり前ですが、会社だって、事業だって、何度でもやり直すことができるからです。
でも、破産したあと、マイナスからの出発になる人も多いのです。
それは、会社が倒産する直前で、「どうにかなる」という甘い考えを持ったからなのです。
債務超過ということは、会社が潰れる寸前です。
その会社をうまくソフトランディングさせるだけではなく、そのあと、自分がどのようにして、新しい人生で再起すべきかという計画を、事前に立てる必要があります。
では、債権者に債務免除させる方法とは、具体的に、何をすればよいのでしょうか?
上記の方法を実行するために、債権者の同意は必要ありません。
これによって、企業再生の道筋を作ってしまいます。
そのあとで、今後の事業計画を作って、債権者に返済できる金額を提示して、残りの金額を、どのように取り扱うのかを協議します。
すでに終わってしまった手続きを戻すことができないため、債権者は同意するか、しないかという選択肢になります。
このとき、「債務免除した方が得」、ということが分かれば、同意するはずです。
もちろん、会社の状況、債権者の種類、債務免除の金額、今までの経緯、そして、債権者との交渉によって、やり方は変わってきます。
ただ、このやり方は、組織再編を使うことが多いため、取締役会決議を行なう役員は当たり前ですが、3分の2以上の株主の同意は得ていなければいけません。
すでに債務超過なのですから、権利を主張する株主はいないと思いますが、事前の説明は行なうべきでしょう。
ここでは、会社分割の具体的な方法を考えてみましょう。
債務超過の会社が、キャッシュフローを生む事業に関連する資産だけを、会社分割で移転させてしまいます。 このとき、株主総会決議は必要ですが、一定の要件さえ満たせば、債権者への個別催告や事前承認は必要ありません。
債権者と話し合いを行い、一部の借入金を会社分割によって、第一段階と同じ会社に移転します。
債務超過の会社に残った不良資産は売却して、そのお金は債権者に返済し、あとは債務免除してもらうのです。
また、会社分割を使わない方法でも、同じです。
債務超過であっても、事業や資産を第三者に売却することもできますし、信託を利用して資産を保全することもできます。
最終的には、債務免除させることになります。
ただ、このスキームを実行するときに、絶対に守るべきことがあります。
それは、債務超過の会社を、何もせずに清算してしまうよりも、債権者は多くのお金を回収できるようになる、ということです。
実行するスキームが、どんなに法律的には、よかったとしても、債権者の権利をまったく無視した、やり方はトラブルになります。
(一部の、まったく企業再生の意見を聞かない債権者は、別ですが)
事後的な承認であったとしても、債権者が納得するスキームを作る必要があるのです。
それが、今すぐの利益でなくとも、事業が再生していくなかで、借入金を分割で返済する、取引を継続することで利益を与えるなど、将来、実現できることでも構いません。
今までの経緯をよく知っている債権者と、今後も付き合う方が、絶対に得なのです。
結果的に、一部を債務免除せざる得ない状況になっても、債権者が納得できるスキームを作ってあげましょう。
それは、より多くのお金を回収できるスキームであれば、よいだけなのです。
債務がカットされれば、会社が、役員が、社員が、事業に専念できるようになり、企業再生への道は、一気に開けます。
最後に、1つだけ重要なことがあります。
債務超過という状態から、再生することは簡単なことではありません。
そのとき、どこかで諦めの気持ちがあると、再生はできなくなります。
再生できる人と、できない人の違いを最後に決めるのは、再生への「手法」ではなく、「気持ち」なのです。