旅館やホテルが、他のビジネスと、決定的に違うことがあります。
あなたが、旅館やホテルを経営しているならば、分かるはずです。
それは、
旅館やホテルは、今の場所から移転できないので、お客に来てもらうしかない
ということです。
「そんなこと当たり前だし、知っているよ」
と、あなたは言うでしょう。
レストランやスーパーであれば、借りているビルから移ることができますし、製造業も今では工場を海外に移転させています。
そもそも、営業マンがお客のところに行くビジネスやインターネットを使ったビジネスならば、事務所は、どこにあってもよいですし、毎年、移転することもできます。
しかし、旅館やホテルは、何億円、何十億円というお金を使って建物を作り、そこでお客を待つしかありません。
ではこれを踏まえて、あなたは、旅館やホテルが儲かるためには、何が一番必要だと思いますか?
温泉が出る、海から近い、遊園地の隣、温泉街まで歩けるなど、その場所を選んだ過去の意思決定のことではありません。
儲けるために、あなたが将来、何を意思決定するのかということです。
もちろん、
「新規のお客に来てもらうための広告を出し続けること」
が、答えです。
あなたは、それも、当たり前だと思うかもしれません。
ではなぜ、内装を豪華に修繕したり、露天風呂を広く改装したり、いきなり別館を建てたり、食事の利益率を低くしてでも、高級食材を使ったり、中庭に大きな池を作ることに、お金をかける旅館やホテルがあるのでしょうか?
儲かりすぎて、税金対策のためにやっているのでしょうか?
どれほど、内装を豪華にしても、まずは、お客に泊まってもらわなければ分かりません。
あなたも、同じようなことをやっていませんか?
そんなことをしても、売上が回復することなどありません。
もちろん、
「一度、泊まったお客に、リピートで使ってもらう」
ということも、まぁまぁ、大事かもしれません。
ただこれも、1度は泊まってくれなければ、アピールすることはできません。
それに、設備投資がよいという理由だけで、何度も泊まる人はいません。
多くても、3回ぐらいが限度でしょう。
あなたも、旅館やホテルに宿泊するときに、「次回は、ちょっと違う旅館やホテルに泊まってみたいなぁ」と思うはずです。
結局、2回目、3回目は、すばらしい設備への感動は小さくなり、飽きてしまうのです。
「あの旅館やホテルは素晴しい」と言われるのは、すばらしい設備だからではなく、「おもてなしの心」があるからです。
人間は、見える設備よりも、見えない心に対する感動の方が、長く続くのです。
例えば、どれほど、有名で高い絵を買っても、何度も見れば飽きるでしょう。
だから、売られてしまうこともあるのです。
でも、子供が作ってくれた自分の似顔絵は、下手でも飽きません。
捨てることもありません。
そこには、「子供の心」があるからです。
それは、見えるものに対する感動ではありません。
有名で高い絵も、見た瞬間は感動したはずです。
ただ、それだけでは、長続きしないということです。
とすれば、設備に投資するよりも、プランの企画を斬新な記憶に残るものにしたり、社員教育を徹底させた方が、リピート率は高くなるということです。
この企画や教育には、時間はかかりますが、コストは、それほどかかりません。
あなたは、何十回も来てくれる常連顧客もいるから、設備への投資も大事だと主張するかもしれません。
でも、そんなにすごい常連客は少数ですから、1部屋か2部屋ぐらい豪華にすればよく、旅館全体の内装まで、お金をかける必要はありません。
とにかく、旅館やホテルは、新規顧客を呼びこむための広告宣伝に、お金を使わなくては、儲からないのです。
それでも、あなたは、
「広告宣伝にお金をかけなくても、儲かっている旅館やホテルがたくさんある」
と反論するかもしれません。
そのとき、多分、あなたの頭に浮かんでいるのは、
などでしょう。
ただ、この意見は、間違っています。
温泉街が有名で、どれほど観光客が多くても、お客を呼び込む努力は必要です。
だから、道後温泉の中でも広告をしない旅館は、やはり潰れるのです。
星野リゾートは、すばらしい旅館ですが、ダメな旅館やホテルを再生させるというストーリーを作ること自体をマスコミに取り上げてもらい、それを宣伝にしているのです。
リッツカールトンは、伝説のホテルマンがいる世界的に有名なホテルです。
しかも、働いている人は、ホテル大学を卒業してマナーを学び、英語も堪能で、全員が優秀な人材なのです。
ということ自体を本にして、宣伝にしているのです。
あなたが、あの旅館は、あのホテルは、と思い浮かべるのは、すでに有名なはずです。
そこで勘違いしてはいけないのは、成功したから有名になったわけではありません。
有名になるように広告宣伝したからこそ、成功したのです。
そして、成功したという噂自体を流すことも、彼らが新規顧客を呼び込むための宣伝戦略なのです。
お客が戦略に乗せれていたとしても、結果的に、その旅館やホテルに満足して、楽しい思い出が作れるならば、誰も文句は言いません。
それどころか、
「こんないい旅館があったなら、もっと早く教えてくれればいいのに」
と言うでしょう。
あなたの旅館とすばらしいサービスを、お客に教えてあげなければ、誰も気づかないのです。
それでも、あなたが広告宣伝への投資に不安を感じる理由は、よく分かります。
今までずっと、あなたの旅館やホテルは、JTBのパンフレットに広告を出しているはずですが、お客の数は年々減っているでしょう。
ホームページも何度もリニューアルして、予約システムも導入したのに、ほとんど効果がないからかもしれません。
でも、安心してください。
広告の効果がないのは、そのやり方に問題があるからだけなのです。
例えば、ほとんどの旅館やホテルが、下記のような宣伝文句を使っています。
お客はこれで、競合の旅館やホテルと比べて、ぜひ、あなたの旅館に泊まってみたいと思うでしょうか?
多分・・・・・・あまり、というよりも、まったく競合の旅館やホテルとの違いが分からないはずです。
というのは、この広告には大きな問題が2つあります。
1つ目は、自分の自慢の宣伝文句が多すぎることです。
「老舗旅館」、「地元料理の豪華な食事」は、お客にとって、何の意味があるでしょうか。
他人の自慢話ほど、心に響かないものはありません。
しかも、部屋の写真と料理の写真を載せますが、実際に泊まってもいないのによく分かりませんし、競合も同じような、きれいな写真を使うのです。
2つ目は、すべての情報を載せようとして、結果的に、分かりにくくなっています。
「温泉の効能がよい」、「近くに観光地」、「エステでリフレッシュ」など、その温泉街に行けば、どこに泊まっても、周りの観光地には行けます。
エステコースなど、今やどこにでもあるサービスです。
しかも、パンフレットに載せることができる文章は限られているため、中途半端な説明になります。
ホームページなら、全部、載せられると思うかもしれませんが、それは、最初のページに興味が湧いたときだけです。
同じように、ホームページの最初の画面に、中途半端な説明が載っていれば、別の旅館やホテルを探してしまうでしょう。
パンフレットよりも、ホームページの方が、一瞬の勝負になるのです。
それでは、具体的には、どう修正すればよいのでしょうか?
あなたの旅館やホテルは、何億円、何十億円というお金で建物を作っているはずです。
それは、自己資金だけで足りずに、銀行からの借入があるでしょう。
その返済と利息の支払いは、売上が下がっても、同じ金額です。
社員の給料も、簡単に下げることはできません。
ということは、とにかく、新規のお客を呼び込み、売上を上げるしかないのです。
広告もせずに、口コミだけで、勝手にお客が、あなたの旅館やホテルを探して、来てくれるというのは幻想です。
設備投資するお金があるならば、広告にお金を使ってください。
内装が古くなると、リピートしてくれないと不安になるかもしれませんが、「おもてなしの心」でカバーすればよいのです。
遊びに来て、心地よいならば、少しぐらい設備が古くても、文句は言いません。
もし、広告にお金を投資しても、売上が回復しないならば、それは、お客にメリットを伝えきれていないのです。
あなたのパンフレットやホームページは、お客の反応が良くなるまで、ドンドン作り変えてください。
ここで、あなたは、他の広告方法もあるのでは?と考えるかもしれません。
確かに、資金が潤沢にあるならば、TVコマーシャルも流せるでしょう。
知識があって、文章力があるならば、本を出すこともできるかもしれません。
しかし、それができるのは、ほんの一握りの人たちです。
95%の旅館とホテルが、パンフレットとホームページの広告で競争しているのです。
この2つの広告がうまい旅館とホテルは、十分、儲かっています。
でも、これは、すごくよい情報です。
2つの宣伝方法を工夫するだけならば、それほど、難しくありません。
何度も言いますが、旅館やホテルは、動くことができません。
だから、お客に来てもらう方法を考えるしかないのですが、レストランと違って、ふらっと立ち寄るものではないのです。
「パンフレットとホームページの広告を工夫して、新規顧客を呼び込む」
あなたが、ただ、これだけに集中する勇気を持てば、絶対に、再生できます。
「やっぱり、不況で、温泉に来る人が減ったんだ。もっと、市で観光を盛り上げてくれないと」
「今の時代は、旅館やホテルに行くよりも、海外に行った方が安いからね」
という愚痴をこぼしているだけでは、赤字から抜け出すことはできません。
今は、すべての旅館やホテルが儲かる時代ではありませんが、確実に、儲かっている旅館やホテルはあります。
しかも、ダメになった老舗旅館がファンドに買収されて、成功しているのですから、やり方次第で、儲かるという証拠なのです。