不動産売却スキーム

利益率が低い不動産を売却して、お金を事業に集中すれば、ばん回できる

「事業はうまく行っているんですが、借入金の返済で会社の資金繰りが苦しいんです。このままいくと、2ヵ月後には会社が破綻してしまいそうなんです」

なぜ???

と思いませんか。
事業が急激に拡大すると、売掛金が大きくなり、資金繰りが苦しくなることがあります。
また、儲かったお金を全力で事業に投資してしまうと、決算期末の税金が支払えなくなったりします。
でも、短期の運転資金であったり、儲かりすぎて支払う税金なら、銀行から短期の借入を行えばよいだけです。
このような借入金であれば、返済にそれほど困ることはありません。
では、何がこの会社を苦しめているのでしょうか。
それは、不動産へ投資したときの長期借入金の返済なのです。

不動産は投資した当初は、それほど資金繰りを圧迫しません。
それどころか、減価償却費で貯まったお金を借金の返済に充てても、残りがあるのです。
このお金は事業資金にゆとりを与えるので、「不動産に投資してよかった」と考えます。
ところが、年数が経つにつれて2つの問題が発生します。

  1. 修繕費が増えだす

    不動産は新築から5年ぐらい経つとちょっとした修繕が必要になってきます。
    10年経つと、防水工事など大規模な修繕も必要になります。
    実は、このお金は取っておかなければいけないのですが、そこまで修繕費がかかると最初は思いません。
    そのため、修繕費が不足するのです。
    修繕が行き届いていない不動産は、見た目がよくありません。
    空室が多くなり、賃料を下げることになります。
    すると、より修繕費が貯まらずに、さらに賃料を下げるという悪循環に陥ります。
    そして、下げた賃料では借金が返済できなくなっていくのです。

  2. 税金が年々、多くなる

    建物は定額法で減価償却するのですが、建物付属設備は定率法で減価償却します。
    減価償却費は支出がない費用であるため、無駄な税金を支払わなくとも、お金を貯めることができます。
    そのため、建物と建物付属設備の減価償却費が大きいほど、借入金の返済が楽なのです。

この定率法とは、最初は大きな減価償却費が計上されるのですが、年数が経つにつれて金額が小さくなるのです。
また、修繕費などもすべて費用になるのではなく、一部は建物付属設備として計上されてしまいます。
つまり、年数が経つにつれて、支払う税金が大きくなるのです。

そこで、土地の価値が大きくて、減価償却費が小さい不動産に投資すればよいのでは、と考えてもいけません。
土地は減価償却しないため、最初から支払う税金が大きくなるだけなのです。

このように、不動産への投資は年数が経つにつれて、修繕費と税金という二重負担が少しずつ増えていき、会社を苦しめることになります。
これを、事業の資金で填補するようになり、ある日、資金繰りが行き詰ることに気づくのです。
このとき、すでに不動産の価値は下がって、賃料だけでは借金が返せない状態になっています。

事業のお金を不動産に回しても、今後もずっと修繕費と税金が増え続けていくので、絶対に再生できません。
それどころか、事業で儲かったお金を事業に再投資しなければ、事業もすぐに陳腐化してしまうのです。

ここで、この不動産が会社の事業に絶対に必要かどうか考えてください。
不動産は基本的に必要ない場合も多いはずです。
例えば、事業とは全く関係なく、不動産投資を行っていただけかもしれません。レストランであっても、他人に不動産を売却して、それを借りることができます。(セールスアンドリースバック)

不動産がなくてもできる事業であれば、不動産は売却するべきです。

今、会社が窮地になっている中で、資金を調達するにしても、再生させるにしても、不動産は足を引っ張るだけのお荷物です。
お金を出資するスポンサーは、事業に関係ない不動産のリスクまでは負えません。
しかも、資金繰りに詰まっている会社の持つ不動産は、修繕などの手入れが行き届いていません。
大きく資金を投入してリニューアルしなければ、賃料を上げることも、高値で売却することもできないのです。
スポンサーも不動産を見に行けばすぐに理解して、「こんな不動産はいらない」と言うでしょう。
事業に関係ない不動産に投入するお金があれば、本業で使うべきです。
では、不動産を売却するという意思決定は、いつやるべきなのでしょうか。

今すぐです。
もちろん、不動産を売却しても、借金を全額返済することなどできません。

本当に資金繰りが詰まって、取引先への支払いや社員への給料支払いができなくなった段階で、売却の意思決定をするのは遅すぎます。
そのときには、事業が止まってしまいます。
この事業をもう一度、動かすためには、取引先への説明、社員の再雇用など、膨大な時間と労力がかかるのです。
本当は、売上を上げることに専念すべきなのに、後ろ向きな仕事ばかりが増えます。
結局、銀行などの債権者から事業の再生が難しいと判断されて、破産へ向かうことになるでしょう。
少しだけ早く意思決定していれば残った事業でさえ、すべてつぶれてしまいます。
そうなる前に、不動産を事業から切り離して売却すべきなのです。

不動産の価値は下がっているので損失が発生して、節税にもなります。
ここで、不動産を売却せずに、事業の利益によって銀行から追加の借入を行うことを考えてはいけません。
会社は少しだけ生き延びますが、借金が大きくなることで状況はより悪くなるのです。
あまりに大きな借金は、経営者の責任が追及され、事業の再生の交渉が難しくなります。
今は、会社の資金繰りをよくして、事業を再生することに集中すべきです。

では、不動産を売却しても借金が返済できないとすれば、具体的に、どうすればよいのでしょうか。

実は、会社分割という組織再編を使えば、不動産と事業をうまく切り離すことができます。
しかも、同時に節税にもなるため、無駄な支出を抑えることができるのです。

スキーム例1
A社の事業を子会社として会社分割して、その株を受け皿会社に売却するという方法です。
最後に残った不動産と株の売却代金で、金融機関などの債権者へ返済します。
もちろん、それだけでは不足しますが、残りは債務免除してもらいます。
そして、新しいスポンサーのもとで事業を再生させ、免除してもらわなかった負債の返済を行っていきます。

このように、事業だけを切り離して、新しいスポンサーが引き継ぐことで、取引先や社員の不安を取り除くことができます。
不動産を売却(任売でも、競売でも)するときの債権者との交渉に事業自体が巻き込まれません。
結果的に、事業が再生して儲かれば、スポンサー、債権者、そして今の役員、社員、取引先、すべての関係者にとって利益になるのです。
スキーム例1図
スキーム例2
A社の事業を会社分割によって現在の株主に移し、そこにスポンサーからの増資を受ける方法です。
このスキームは、現在の株主が事業の議決権の一部を継続保有するスキームです。
A社の事業が現在の株主の力に大きく依存する場合には、今後も意思決定に関わってもらうべきです。
銀行などの債権者もスポンサーも、株主に失敗した責任を押し付けるよりも、将来、事業が再生できることを望んでいます。
全員が会社を破産させて、経営陣に責任を取らせても、ほとんどお金が返ってこないことを知っています。
そして、将来、事業が十分再生できた段階で、スポンサーの株を買い取ればよいのです。
スキーム例2図

もちろん、再生スキームは個別の事情を十分考えて作らなくてはいけません。
上記の2つの事例だけが全てではないのです。
税金や経費が最も安くなる組織再編のスキームを作りましょう。

最後に、1つだけ重要なことがあります。
明らかに足を引っ張っているのは不動産なのに、それを手放すことが嫌だと考えてしまうことがあります。
長く保有している不動産には愛着があったり、もしかしたら不動産の価値が上がると考えているからかもしれません。

資金を投入してリニューアルしなければ、不動産の価値が上がることはありません!

不動産も勝ち負けがハッキリするようになりました。
景気がよくなっても、すべての不動産の価値が上がることはありません。
とにかく、不動産ではなく、事業を継続することに集中すべきです。

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